世界最大の生産能力、セルメット®の製造現場〜富山住友電工、モノづくりへのこだわり〜

世界最大の生産能力、セルメット®の製造現場〜富山住友電工、モノづくりへのこだわり〜

高い生産性と品質を実現

富山県、新湊港近くに位置する富山住友電工は、1973年、アルミ連続鋳造圧延設備が稼働したことで創業した。翌年、住友電工 富山電線工場が竣工、アルミ高圧送電線の製造を開始、そして1985年、セルメット®の製造が開始され、1994年に生産体制を強化。さらにHEVへの採用が急速に進み、2007年から生産設備を拡充してきた。現在の生産能力は年平均で月産80万㎡。世界最大である。

セルメット®は基材となる発泡ウレタンにニッケルを電気めっきし、製造される。富山住友電工では、均一なめっきを高速で行う工程の後に、さらに高品質なめっき工程を行う2段めっき法で生産性と品質を両立した。その後、焙焼によってウレタン、カーボンを除去。厚みを調整し、製品幅への切断を経て完成。全長の外観検査後に出荷となる。

革新的設備「ロール to ロール」の実現

富山住友電工(株) 取締役 製造部長 吉川 竜一
富山住友電工(株) 取締役 製造部長 吉川 竜一

この一連の製造工程の中で、革新的な取り組みの一つだったのが「ロール to ロール」の実現である。関わったのが、現在、取締役で製造部長の吉川竜一である。大学でセルメット®の研究に従事し、「この研究がうまく行けば、携帯電話がポケットに入るようになる」と言われ、製造している会社を聞くと富山住友電工と教えられた。セルメット®が伸びると予感し、富山住友電工に入社を希望した。

「入社して製造設備の設計担当となりましたが、幅が狭く単板での生産設備を見て、生産性が低くロスが大きいことを上司に進言しました。その問題解決となる『革新プロジェクト』を提案して立ち上げたのが現在の設備構成の原型になりました。目指したのは、原料幅を1mに広げ、めっき、熱処理から検査工程まで『ロール to ロール』の設備を生み出すこと。セルメット®は軽く、連続でリールに巻き取る設計が非常に難しい。幅を広げると、切れたりして、うまく流れない。周りの人にいろいろアドバイスもらい、2年位かけて安定して製品を流せるようにしました」(吉川)

低張力搬送、曲げ回数の少ない装置設計、低張力で整列巻きできる制御開発、高速での蛇行制御開発等、さまざまな試みがなされた。これにより、全工程を連続生産できる設備が構築された。

BCP強化にリソースを注ぎ操業停止リスクを回避

富山住友電工(株) 品質保証部長 大村 忠司
富山住友電工(株) 品質保証部長 大村 忠司

現在、品質保証部長である大村忠司は、入社以来生産技術担当としてセルメット®に携わってきた。顧客担当でもあった大村は、金属異物混入対策で矢面に立つことになった。

「生産設備からできる限り金属異物を排除し、いかに工場内に粉塵を入れないようにするか、徹底した取り組みを進めました。考えられる全てのリスクを潰していく作業でしたが、着実に混入件数は減少しました。当社内だけではなく、原料メーカーとも協調して高品質のセルメット®を安定的に顧客に届けたいと思っています」(大村)

富山住友電工(株) 製造部 電子材料工場長 西村 淳一
富山住友電工(株) 製造部 電子材料工場長 西村 淳一

また、現在、電子材料工場(セルメット®工場)長である西村淳一は、セルメット®が車載電池用に転換する時期から関わっている。

「印象深かったのは、原料仕入れ先でトラブルが発生し、別の仕入れ先での代替生産に向けて現地で活動したことです。金属異物混入対策で構築されたチーム力が発揮され、改めてBCP(Business Continuity Plan= 事業継続計画)の重要性を痛感しました。現在、工場長として不測の事態による操業停止リスクを常に念頭に置き、回避するためのBCP強化にリソースを注いでいます」(西村)

セルメット®の製造工程
セルメット®の製造工程

世界に認知されオンリーワンの存在に

富山住友電工(株) 電子材料技術部 電子材料技術課長 塚本 賢吾
富山住友電工(株) 電子材料技術部 電子材料技術課長 塚本 賢吾

今後のHEV 向けセルメット®でも、新たな技術開発が進められている。それに取り組んでいるのが、電子材料技術課長の塚本賢吾だ。住友電工とニッケル水素電池に適用される新しいセルメット®の開発に取り組んでいる。

「私が取り組んでいるのは、2年後に量産開始を予定しているセルメット®の性能向上です。また、燃料電池や水素製造装置に対応するため、サンプル提案も行っています。今、セルメット®は転換期であり、これをチャンスに変えていきたいと思っています」(塚本)

富山住友電工(株) 取締役 技術部長 土田 斉
富山住友電工(株) 取締役 技術部長 土田 斉

富山住友電工でのセルメット®生産を早い時期から牽引してきたのが、取締役で技術部長の土田斉だ。

「セルメット®には、さまざまな機能があり、シールド性能や吸音など複数の機能が一つの部材にまとまっている。ただその多彩な機能をお客様とマッチさせることが難しく、私たちの先輩たちも電池に採用されるまでに紆余曲折がありました。セルメット®がここまでこられたのは、良きパートナーと仕入れ先に巡り合ったことでいくつもの壁を乗り越えてきたからだと思います。良いものを作ろうというベクトル合わせを行う、良い関係づくりが重要。そこの総合力が当社の強みです。『水素』への新たな展開においても、課題は少なくありませんが、セルメット®を世界に認知させ、真のNo.1、オンリーワンの存在に進化させたいと考えています」(土田)

工場の屋根に設置されたソーラーパネル。積極的な省エネと創エネ技術で、2050年カーボンニュートラルの実現を目指す。
工場の屋根に設置されたソーラーパネル。積極的な省エネと創エネ技術で、2050年カーボンニュートラルの実現を目指す。

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