「割れない」タングステンモノブロック<br>~唯一無二、優れた耐久性への挑戦~

「割れない」タングステンモノブロック
~唯一無二、優れた耐久性への挑戦~

ダイバータのイメージ
(ユニットが繋がって巨大なリング状になる)
©ITER Organization

培われた粉末冶金技術と熱間加工技術

ダイバータの各極の担当箇所 ©ITER Organization
ダイバータの各極の担当箇所 ©ITER Organization
日本が担当する外側ターゲット ©ITER Organization
日本が担当する外側ターゲット ©ITER Organization

アライドマテリアルは、2000年に東京タングステン株式会社と大阪ダイヤモンド工業株式会社が合併して誕生した。以来、高融点金属材料とダイヤモンド精密工具の製造を両輪に、住友電工グループの産業素材部門の一翼として事業を推進している。タングステンに関しては精製から最終製品まで自社で完結できることが強みだ。QSTとの関係は古く、前身の日本原子力研究所のときから取引があった。1999年からはITER用タングステンの研究開発を開始している。タングステンは、金属の中で最も融点が高く、また熱膨張率が低く、超高温環境下でも形状安定性が極めて高いという特性がある。その特性を最大限に引き出すのが、アライドマテリアルが長年にわたって蓄積してきた粉末冶金技術(粉末プレス・焼結)と熱間加工技術だ。これらの技術力が「割れないタングステン」を生み出し、ダイバータへの採用へ繋がった。

ここで改めて、ダイバータの構成を見てみよう。欧州が製作を担当するカセットボディ(支持体)に日本が調達する外側ターゲット、欧州の内側ターゲット、そしてロシアのドームが取り付けられてダイバータは完成する。外側ターゲットの受熱面側は、30×30×10mm程度の「モノブロック」と呼ばれるタングステン材で構成される。これに冷却管を通したものが1つのカセットボディにつき約20列並ぶ。真空容器の下部に設置される合計54基のカセットボディ上に並ぶ外側ターゲットのモノブロックの総計は約20万個におよぶ。そのうち1個でも表面が熱負荷により溶融すれば、冷却管の破断も起こりうる。つまり、長時間プラズマにさらされるすべてのモノブロックが高い耐久性を維持できなければ、核融合反応も維持できない。アライドマテリアルは、強みである粉末冶金技術を応用し、耐熱衝撃タングステン、「割れないタングステン」を開発した。

高温下の再結晶粒粗大化を抑制する

(株)アライドマテリアル 熱マネジメント事業部 技術部 ITER技術グループ マネージャー 飯倉 武志
(株)アライドマテリアル 熱マネジメント事業部 技術部 ITER技術グループ マネージャー 飯倉 武志

熱マネジメント事業部の加工技術グループ(酒田製作所)でタングステンモノブロックの生産技術を担当し、現在、技術部ITER技術グループマネージャーの飯倉武志は、入社2年目の2013年からITER計画に参加している。当時は富山製作所の素材技術グループでモノブロックの素材であるタングステン板材の開発に取り組んでいた。2013年は、タングステンがダイバータに採用されることが決定した年でもあった。

「タングステン板材の製造は、タングステン粉末のプレス体を作製した後、焼結を行い、得られた焼結体を塑性加工して行われます。塑性加工されたタングステン材は、2,000℃を超えるプラズマの高熱に長時間さらされると新しい結晶粒(再結晶粒)が生成・成長して受熱面が隆起、割れる可能性が高くなります。熱負荷による耐久性を向上させるには、この現象を可能な限り抑制することが有効と考えられました。私たちが目指したのは、微細な再結晶粒を維持することでした」(飯倉)

高熱負荷試験装置(JEBIS) ©量子科学技術研究開発機構(QST)
高熱負荷試験装置(JEBIS) ©量子科学技術研究開発機構(QST)

ポイントになったのは、塑性加工、すなわち圧延のプロセスである。圧延は熱と圧力をかけて加工する工程だが、「微細な再結晶粒を維持」する最適な熱・圧力の条件・パラメーターを、1年以上かけて見極めて、試作を繰り返し、新たなタングステン開発を進めていった。

「開発した板材から熱負荷試験に用いるタングステンモノブロックを作製し、QST様の高熱負荷試験装置で熱負荷試験を実施しました。約2,300℃に相当する電子ビームをタングステンモノブロックに10秒照射、10秒冷却するサイクルを1,000回繰り返すITER設計要求の3倍以上のサイクル数の試験です。結果、従来のモノブロックに発生した熱負荷面の隆起が、新たに開発した製品には観察されませんでした。微細な再結晶粒を維持したことで、ダイバータに適した性能を示すことができたのです」(飯倉)

外側ターゲットにモノブロックを取り付ける  ©量子科学技術研究開発機構(QST)
外側ターゲットにモノブロックを取り付ける ©量子科学技術研究開発機構(QST)
熱負荷試験後のタングステンモノブロック ©量子科学技術研究開発機構(QST)
熱負荷試験後のタングステンモノブロック ©量子科学技術研究開発機構(QST)

世界が評価した「割れないタングステン」

JEBISでの試験風景 ©量子科学技術研究開発機構(QST)
JEBISでの試験風景 ©量子科学技術研究開発機構(QST)
ロシアのエフレモフ研究所での試験結果 ©量子科学技術研究開発機構(QST)
ロシアのエフレモフ研究所での試験結果 ©量子科学技術研究開発機構(QST)

続いて飯倉らは、開発したタングステンモノブロックを用いて、外側ターゲットのプロトタイプ評価試験に挑む。これはITER機構およびQSTの立ち会いのもと、ロシアのエフレモフ研究所で実施された熱負荷試験である。試験ではITERでの要求条件を大きく上回る条件で実施されたが、すべてのモノブロックに「割れ」が見られず、ここでも非常に優れた耐久性を示したのである。これによって、世界に先駆けて「割れないタングステン」として高い評価を得るとともに、ITER機構およびQSTからダイバータ用タングステン材として認証を受けた。「割れないタングステン」を供給できるのは、現時点でアライドマテリアルのみである。また、外側ターゲットの非常に複雑な形状に対して、10μmの精度が要求される加工においても、アライドマテリアルが培ってきた高い加工技術が発揮されている。現在、酒田製作所でモノブロックの生産技術に携わっている飯倉は、2018年にフランスのITER建設現場を訪れている。

「ITER計画は、世界各国が参加する巨大な国際プロジェクトです。環境やエネルギー問題を解決する可能性があり、夢がある取り組みであるのは間違いありません。それを担う技術者の一人であることに喜びと誇りがありますし、今後生まれてくる、諸々の課題に対しても意欲的に取り組んでいきたいと考えています」(飯倉)

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